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設計資料

ヒーターの寿命と効率

電気ヒーターは消耗品である・・・

このページの目次

  1. ヒーターの寿命:電気ヒーターの特性、エレメントの配置、特にワット密度を中心に話を進める。
  2. ワット密度:ワット密度と寿命について
  3. 許容ワット密度:被加熱物に最適なワット密度の設定
  4. 任意のワット密度におけるヒーター電力[W]: ヒーター外径6.5mm,9.0mm,12mm,15mmでワット密度を1.0から10.0まで変化させたときのヒーター電力[W]。
  5. ワット密度の目安:代表的な被加熱物におけるワット密度の適用範囲(目安)
  6. エレメントの配置:エレメントの配置に関する注意事項
  7. ヒーターエレメントの外径と寿命:同じ電力で外径を太くすると寿命は延びるが・・・
  8. 外径と発熱線径の選択:高ワット密度は短寿命
  9. 仕様に合わせたヒーターの設計:長年の実績から最適解をご提案。

1.ヒーターの寿命

ヒーターの寿命とは?

ヒーターの寿命は、一般的に言うとヒーターの使用開始から断線・短絡・地絡により発熱体としての機能を果たさなくなるまでの期間である。

腐食によるシースパイプの損傷という化学的問題(たいへん難しい・・・)もあるが、電気ヒーターの特性、エレメントの配置、特にワット密度を中心にヒーターを扱う上での注意事項を下表にまとめた。

ヒーターの寿命、ワット密度、腐食については、ヒーターFAQ (Q3,Q5,Q11)を参照のこと。

寿命に関する一般的な注意事項

No. 注意事項 備考
1 一般的に太くて長いヒーターエレメントに低いワット密度を設定すればヒーターは長寿命となる。
メンテナンスフリーというメリットはあるが、逆に熱容量が増大してすぐ暖まらない・なかなか冷えない・材料費がかさむ・場所をとるなど、熱効率が悪く不便な面もある。
7.および8.項参照
2 高効率高ワット密度のヒーターは、仕様上必要なことも多く実績もあるが、寿命の面でどうしても問題が残る。
ヒーターは短寿命な交換部品と割り切って、こまめに交換する必要がある。
8.項参照
3 一方エレメントの配置もヒーターの寿命を考える上で大切なファクターである。
複数のヒーターエレメントを数回路に組み合わせて使用している場合、部分的に熱だまりができてヒーター内部の温度が設計値以上に上昇(過熱)し、寿命を短くすることもある。
6.項参照
4 用途・加熱温度・使用場所により、ワット密度やヒーター配列など、最も適したヒーターを選ぶことが肝要である。 5.6.項参照

2.ワット密度

ワット密度[W/cm2]は、ヒーターエレメント単位表面積あたりの電力である。すなわち、ヒーターエレメント表面積[cm2]でそのヒーターの電力[W]を除した値である。
ワット密度はヒーターの寿命に関係する。ワット密度が大きくなると表面温度は高くなる。
ヒーター内部が高温になると、発熱体であるニクロム線の断線や内部絶縁物MgO(酸化マグネシウム)の電気的絶縁抵抗低下を招き、ヒーターの寿命は短くなる。

3.許容ワット密度

ワット密度はヒーターの寿命だけでなく、加熱する温度・物質(被加熱物)の種類によっても最適な値を設定する必要がある。
熱伝達率の高い物質には高いワット密度を設定することができるが、加熱温度・物質によっては引火・相変化・化学変化などが起こらないような最適なワット密度にしなければならない。
当然粘性や、汚れの付着なども考慮する。つまり被加熱物によって適用できる上限のワット密度があり、これを許容ワット密度と呼んでいる。

  • たとえば水用ヒーターではワット密度=8.5[W/cm2]という高ワット密度で設計することもあるが、油用ヒーターではワット密度=1.0[W/cm2]程度の低いワット密度で設計する。

4.任意のワット密度におけるヒーター電力

ヒーターの長さを1mとしたとき、外径6.5mm・9.0mm・12mm・15mmのヒーターエレメントのワット密度を任意に選んだ場合のヒーター電力[W]を計算した。

表1 ヒーター外径と任意のワット密度におけるヒーター電力[W]

太さ
[mm]
表面積
[cm2]
断面積
[cm2]
質量
[g/m]
ワット密度 [W/cm2
1.01.52.02.53.04.04.55.06.07.08.010.0
OD6.52041.33約2002043064085106127148169181020142816322040
OD9.02832.54約350283425566708849991113212741415198122642830
OD123774.52約60037756675494311311320150816971885263930163770
OD154717.07約900471707942117814131649188421202355329737684710

電力の単位[W]

注意:ヒーターエレメントの長さは1mとして計算している。

5.ワット密度の目安

日本ヒーターのシーズヒーターにおける、代表的なワット密度の範囲(目安)を示す。

表2 被加熱物による代表的なワット密度の適用範囲

被加熱物
~最高温度
[℃]
ワット密度[W/cm2]
2.0 4.0 6.0 8.0 10.0
水 ~100℃           ** *** ***    
薬液 ~80℃   *** *** *** *** ***        
純水 ~90℃   ** *** ***            
油 ~200℃ ** ***                
金属面 ~400℃ * *** ***              
ガス ~100℃ ** ***                
真空中 *                  
注意
  1. 液体加熱の場合、種類によって特殊なものがある。
  2. 気体加熱の場合、風速により変更する必要がある。
  3. 表2は、日本ヒーターの実績に基づくワット密度の範囲を示したものである。
    注1、注2の例の他にも、条件によっては表に示した値以上のものやより低い値を選定する場合がある。
    実際にヒーターを使用する際には適用できない場合もあり、注意が必要である。

6.エレメントの配列

ヒーターのエレメントは、交換・補修に便利なように、同じエレメントを複数本使って、加熱装置(加温槽、乾燥機など)を構成するのが一般的である。
下記にヒーターエレメントの配列(配置)に関して注意すべき点を述べる。

  • 配管の途中にヒーターを入れて使用する場合
    • 流体入口より出口に近いヒーターエレメントに、熱負荷が大きくかかる。ヒーター配列の設計を誤ると、熱だまりやエレメントの相互干渉・流体の短絡通過(ショートパス)などにより、エレメントの一部が極端に高温になったり、熱交換の効率が落ちたりする。
  • 流れのない大気中で、熱伝導や対流で加熱する場合
    • 自然対流での加熱は、ヒーターの熱分布が不均一になり易く注意が必要。
    • 発熱面の端の部分は、熱が伝わりやすく一般的に低くなる。
    • また、中央部分は高温になる。
  • 温度制御をする場合
    • ヒーターをいくつかの回路に分けて温度制御をする場合、配列や回路配分によっては熱分布が極端に不均一となり、ヒーターに偏った熱負荷がかかってヒーターの寿命を縮めることがある。
    • 均一な熱分布や高効率での熱交換を考え、各エレメントに均等に熱負荷がかかることが大切である。

7.ヒーターエレメントの外径と寿命

ヒーターエレメントの外径とワット密度の関係を考えると、同じ電力のヒーターでワット密度は太さに比例して下がる(ヒーター電力をヒーターエレメントの表面積で割るとワット密度W/cm2となる)。

腐食が問題にならなければ、メンテナンスフリーをねらった高寿命ヒーターとして太めのヒーターが有効な場合もある。

しかし、断面積は半径の二乗で増加するので、質量・蓄熱量・価格などの面では得策ではない。

8.外径と発熱線径の選択

高効率高ワット密度のヒーターエレメントでは、エレメント外径を細くし絶縁物も必要最小限に抑えて小型で高ワット密度のヒーターを製作することがある。 ヒーターの外径が細いと内部の発熱線(ニクロム線)も太いものは使えないため、特に大電力[W]の場合は寿命が短くなる。

反対に少ないヒーター電力[W]で太い外径のエレメントとすると、既述のごとくワット密度は下がる。 しかし、発熱線から被加熱物へ熱が伝わりにくくなって、ヒーターエレメント内部に熱がこもってしまうこともある。

9.仕様に合わせたヒーターの設計

ヒーターは消耗品であることを前提に、メンテナンスのし易さを考慮した装置の設計をするか、あるいはヒーターエレメントをメンテナンスフリーとして、低いワット密度の長寿命なヒーターを使用する(しかしヒーターサイズが大きくなり単価も割高となる)、といった仕様による使い分けが必要。

現在日本ヒーターのヒーターエレメント外径は、長年の製造実績を踏まえ、標準品ではOD12mmを、その他に準標準品としてOD9mmを採用している。

内部の発熱線(ニクロム線)に関しては、仕様に応じた最適なものを選択している。